2007年06月17日

巧拙とか商品価値とかどうでもいいところ

さて、実は先週の夜中にテレビを見ていたのですが、そこでNHKアーカイブスっていうのをたまたまやっていて、これが、「今朝の秋」という昭和62年に放映された番組で、何と、笠智衆とか杉村春子とか加藤嘉とか、もはや観ることの出来なくなってしまったそうそうたる役者が出演している、どえらい番組だったのです。

ええ、久しぶりに見ましたよ、加藤嘉、しみじみ。

そこでね、この番組のクライマックスで笠智衆が、なんとザ・ピーナツの恋の季節を歌ったのですよ。
あの笠智衆が、「恋は、わたしの恋は、空を染めて、燃えたの」と、真面目に歌うのです。それも、しみじみと。
ああ、こんないい場面があったなんて、途中から録画しといて本当に良かった。

そうそうそれで、昔の小津の映画なんかをみていると、そもそもまだテレビがなかったような時代の話なんですけど、みんなでその場の雰囲気を楽しむために唄を歌う場面が結構あるんですよね。(それでも、笠智衆が歌う場面は1つしか知らないのですが。)

テレビやレコードが出来るまで、「歌」って本当は、ほとんどが「その場で唄って」みんなで楽しむものだったのですよね。

それがいつの間にか日本では、みんなで唄を歌うのなんて小学生の遠足ぐらいになっちゃったし、カラオケでも自分が唄うことが一番大事で、他人が歌ってるときには次の曲捜して入れるのに手一杯で、場の雰囲気とかじつはもう関係なくなってるような気がする。

だから今の日本の音楽って、売られているものを「聴いて」楽しむのがほとんど主体になってしまって、だから最近ではスピーカーから出て来た音楽しか聞いていないような気がするし、しかもほとんどが、もっとちっぽけなイヤフォンから聞こえる音ばかり。

そこでといってはナンですが、実は外国では、結構音楽を聴くことができました。
あちこちの街角で、そこそこ腕のいい音楽家がたくさん営業していたので、生の音楽がいたるところにあったのです。
パリでは、コンサルバトゥールの学生さんが街角でオペラのアリアばかりを選んで歌ってたことがありました。
これがまた難しいパサージュもきちんと唄いこなすので、きれいなソプラノが石造りの建物の間に響いて、すっごくいいのです。
(あの娘、すごく上手だったので、他の音楽家達とは桁違いに儲けてました。)

それに、イタリアでは、友人達と車に乗っている時などに話題が音楽のほうに流れると、結構みんなでそれを歌いだすんです。もちろんこういう場面では、上手かどうかとかなんてのはどうでもよくて、とても楽しそうに一つの音楽をみんなで唄うだけ。
これがまたとてもいい雰囲気で、こんな場面が何度もありました。

だからどれも、残っているのは「歌」の記憶だけではなく、その場の情景や友人達とのやり取りと結びついた、特別な思い出になっているのです。

やっぱり日本では、いつの間にか音楽が、どこか壁一枚隔てた特別なものになっちゃっているというか、少なくとも自分で選んでイヤフォンで鳴らす「どうにでも取替えのきくBGM」になちゃってて、日常的にみんなで歌なんか唄うなんて、どこか恥ずかしく感じるような気まずさなんかもあって、根源にあったはずの「唄う」という欲動が衰えているというか。

笠智衆の唄をきっかけに、今週はこのようなことをブツブツと考えていたのでした。

しか~し!
今日、地元の駅で電車を待っていたのですが、すると...
ホームの向こう側から女性達の綺麗な声が聞こえてきたのです。
見れば地元らしき女子高生の一団だったのですが、誰かが何かの歌の1フレーズをちょっと歌ったらしく、すかさずみんなで唱和して、ちょっとしたコーラスになっていました。
ホームにいた人達も、そちらを一瞬凝視したりして、その場の駅の時間が止まったり。

日本の女子高生もやるじゃないか...
しみじみ。



Posted by mouf at 23:47│Comments(2)
この記事へのコメント
ははぁ、見ました「今朝の秋」。たぶん、「今朝の秋」。
調べてみると、20年前というから、小学生か中学生のときです。
「恋の季節」もこのドラマで初めて知ったような気がします。
とっても印象的でしたが、出ていたのが名優揃いというのをやっと今知りました。
脚本は山田太一なんですね。あの人の日本語好きです。
こないだも渡辺謙さんのドラマやっててよかったです。ハズレなしな感じですね。

先週の再放送も、最後のほうをチラっと見て、「あぁ、あれだ」と
思ったのですが、終わりかけなドラマに意識を置くのは寂しいので
スルーしてしまいました。
Posted by uramaya at 2007年06月18日 12:42
昨日まで夏の延長で凶暴に暑い日が続いていたはずなのに、今朝ふと外にでたら、なぜかすっかり秋めいてるじゃん、というのが季語の「今朝の秋」らしいです。
たぶん、定職屋の店先で「今日はとんかつはパスだなぁ」などと考えた大人な自分にふと気がついたときのような、清清しいような、それでいてちょっとやるせない感覚ですね。

  とんかつは
  衣を脱いで 今朝の秋。  芭蕉
Posted by 毛布 at 2007年06月19日 21:53
 
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