2007年03月04日

Créateur

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これは、みなさん御存じの、デューラーのMelencolia-I。

メランコリアとは、もともと黒胆汁という意味で、これはクレッチマーの性格分類の「胆汁質」、つまり「憂鬱」を表すようです。

しかし、このメランコリアでは、主人公の天使の周囲にはさまざまな器物が置かれています。球や多面体があり、足元には鋸や鉋や釘、そして頭上には砂時計や魔方陣が見て取れます。
そして、羊やチビ天使がまだ眠りこけているなか、力強い朝日は街を照らし始めたのですが、主人公の天使はコンパスを手に明らかに何かを考えており、その眼光はとても鋭い。
およそ「憂鬱」という印象など全く与えません。

これは聞きかじりですが、この作品は「すべての創造的なものは憂鬱(melancolia)から産まれる」ということを表現しているのだそうです。

というわけで、たまたま読んでいたのが、吾妻ひでおの「うつうつひでお日記」
失踪・アル中、アルコール病棟入院から戻った著者が、「失踪日記」が受け入れられるまでの、仕事がなく貧乏で、漫画家としての展望も見失ってしまった(?)単調な日々を、絵日記にしたものです。

とはいえ、さほどの悲壮感はありません。
表紙にもあるとおり、「食って読書して寝てタバコ吸って食ってウンコして寝て食って寝た」みたいな内容で、毎日のように外出するものの、行く先は本屋と図書館とコンビニでアイスを買うぐらい。昼ごはんも「玉子かけキムチ御飯」みたいなものばっかり。しかし、もちろん読者への気配りはきちんとされていて、単調な日は無理をせずに3-4コマに抑えることで飽きさせないためのスピード感が維持されていて、そこに大量のイラストが入って暗い雰囲気が払拭されています。

帯に「事件なし、波乱なし、仕事なし。どん底日記」とまで書かれたこの本なのですが、ところが…
作者は実はかなり精力的なのです。連日大量の本を読みまくり、そして原稿を描く。出版のアテもないのに書きまくるのです(その一部が「失踪日記」)。

何よりも凄いのが、「仕事に疲れたら、お絵描きして遊ぶ 紙があると何か描く お金があんまりかからない(99p)」という一言です。
以前、職場で仕事の細かなことをスタッフで延々と話していたら、上司からしみじみと「お前ら、本当に(この仕事が)好きだねぇ」と言われたことがありました。(あまり「好き」でもなかった自分は苦笑した。)
つまりこの方は、絵を描くことが「お好き」なのです。

多少ウツ気味になっても、絵を描く気持ちは萎えない。意識的に絵を描く生活から逃避したりしても、絵を描くことそのものはそれ以前にもう生き方の一部になっている。
決して躁転して朝方まで怪しく仕事をしまくっているわけではなく、存在の一部となりうるものを仕事として、それを当然として継続している。

収入を得るため、社会から認められるためにある役割を演じる、そんな俗世間の利益を離れた状況で、それを継続すべく何モノかによって突き動かされる必然。
このあたりを、とってもうらまやしいと思ったのでした。


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Posted by mouf at 18:15│Comments(0)文庫
 
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